我が国が持続的に発展できるためには,社会の安全・安心・利便性などを支えるインフラの一層の整備と維持,健全性のモニタリングが不可欠であることは言うまでもありません。しかし,人材不足,経済停滞,少子高齢化,海外への資源依存などの日本社会の構造的問題に加えて,地球温暖化や気圏・地圏・水圏に跨がる環境汚染というグローバルな問題にも直面しており,従来の技術では対応できないところが多くなってきています。そのため,省資源,省エネルギー,高効率,カーボンニュートラルの建設技術,短時間で多くの場所から高品質のデータを取得できる計測技術,大量のデータからインフラ構造物の表面や内部の状態を可視化・評価できる情報処理技術など,ますます高度な技術がインフラ維持管理に求められ,人工知能の活用も一層重要となります。これに加えて,他分野との連携や融合もさらに必要となります。例えば,私自身は陸域と海底での鉱物・エネルギー・水資源の分布形態や成因に関する研究に取り組んでいますが,資源分野で培われてきた地下構造の可視化技術,離散的な点や線データの3次元モデリング技術,物質の地質学的性質や物性を推定するリモートセンシング技術などは,社会インフラの維持管理と有効にリンクできます。このように大学での基礎研究,産業界での技術開発,官公庁のニーズなどを統合し,産学官の一層の連携と協力により,本インフラ先端技術コンソーシアムから日本はもとより世界を先導する研究成果と技術が生み出され,未来社会に多大に貢献できることを願ってやみません。
インフラ先端技術産学共同講座を2014年から組織し、道路インフラを中心に革新的な検査・診断手法を研究開発してまいりました。講座ではセンサ、エッジコンピューティング、環境発電デバイス、データサイエンスなど維持管理に不可欠な分野横断型の国家プロジェクトテーマに携わり、一部土木構造物への実装が検討されています。今後、本格実装と標準化を進めるためには、更に積極的かつ野心的な戦略に基づく異分野融合と、インフラ管理者、民間、研究機関が一同に会するリアルかつサイバーな「場」が必要となります。本コンソーシアムでは、この趣旨に呼応した仲間が無機・有機的に集える、国内のみならず世界でも核となるインフラ先端技術に関するコンソーシアムを築いていきたいと思っています。
インフラは造りこなせばそれで良いというものではありません。適切に使いこなすことが要求されます。そのためには目の前にある既存のインフラを点検し、適切に診断を下し、その結果に対応した対策、例えば補修・補強・使用制限・撤去・更新などを行う必要があるのです。そのような場面では、対象とするインフラの劣化機構を推定し、今後の供用シナリオを設定し、その経時的な性能を照査したうえで診断を下す必要があるのです。しかし、インフラの診断技術はまだ十分な確立を見ていないのが現状なのです。本コンソーシアムが、診断に関わる先端的な技術情報を共有し、次の大きな一歩を踏み出し、診断知のCOEとなることを期待するとともに実現することを信じています。